新潟県加茂市出身の写真家・牛腸茂雄(1946-1983)。36歳という若さで世を去りながら、1970年代の日本の写真界を代表する一人と目され、没後30年を経てなお、写真集の刊行が相次ぐなど、評価はいやますばかりです。
幼いころに患った胸椎カリエスのため20歳までの命とも言われた彼ですが、デザインを志し東京の桑沢デザイン研究所に学びます。ここで写真家・大辻清司に見出され、本格的に写真の才能を開花させることとなりました。
牛腸があえて賭けていたのは、「見過ごされてしまうかもしれない、ぎりぎりのところの写真」。淡々と日常を見つめるその写真は、同時代の報道写真やコマーシャル・フォトの世界とは一線を画すものでした。「一見なんの変哲もない」街や人々の景色の中にこそ、自己と世界との関わりの深遠さを見出そうとしたのです。
本展では、《日々》、《見慣れた街の中で》、《幼年の「時間 (とき)」》など生前に発表されたシリーズに加え、当館の豊富な資料から<わたし>という他者を問い続けた牛腸の制作の多面性に迫ります。代表作《SELF AND OTHERS》の写真集制作に向けての細やかなノートや、友人たちと作った実験的な短編映画、写真と並行して精力的に制作したインクブロットやマーブリングによる作品。死の前年の個展《見慣れた街の中で》で試みた展示手法も再現します。
その静謐な世界のために、牛腸が文字通り命を捧げた情熱に、あらためて触れる機会となるでしょう。