地域にゆかりの深い作家を紹介してきた茅野市美術館では、このたび茅野市出身の画家・矢﨑博信 (やさきひろのぶ)(1914-1944)の展覧会を開催します。
矢﨑博信は、諏訪中学校 (現長野県諏訪清陵高等学校) で画家になる決意をし、同校で郷土の画家・高橋貞一郎に学びます。1933年、帝國美術学校(現武蔵野美術大学)へ入学し、在学中、小山田二郎らと「L'anima (アニマ)」、浅原清隆らと「動向」を結成。ともに日本のシュルレアリスム (超現実主義) を標榜した先駆的グループでした。シュルレアリスムは、1920年代にヨーロッパでおこり、夢や幻想などの潜在意識の世界を重んじ、それを絵画や詩に表わそうとした芸術思潮です。矢﨑博信はその思潮に惹かれながら思考を重ね、自身の生きる現実世界に、幻想を重ねあわせるような作風を見出します。1938年の帰郷後は小中学校の教員を務めながら、シュルレアリスムの視点から、俳諧と絵画の融合を試みました。前衛的な活動が制限を受けかねない戦時中に、直接的な弾圧は無かったものの、三度も召集を受け、1944年2月、中部太平洋トラック島沖で、29歳の若さで戦死しました。
本展では、日本のシュルレアリスムの先駆者である矢﨑博信が、10代で画家を志し、画学生として様々な芸術に触れ、厳しい戦時下で自身の美と思想を探求し、20代で散ったその短い生涯の歩みを、油彩画約70点やスケッチ、関係資料によりみつめ直します。