田淵安一(1921-2009)は、1951年フランスに渡り、以後約60年もの間、同国を拠点に第一線で創作活動を続けた洋画家です。当館では96年に鎌倉館、06年に葉山館で大規模な個展を開催しています。09年に作家が亡くなった後、ご遺族より水彩画、版画を中心に多くの作品が寄贈されたことを記念し、本展を開催いたします。
福岡県小倉で育った田淵は、学徒動員で入隊し終戦を迎えます。その後、東京帝国大学文学部美術史学科でドラクロワ以降のフランス絵画を研究しつつ、新制作派協会に出品を続けました。51年にパリに渡った当初の田淵の絵画は、人間などの具象的な形態を留めたものでした。しだいに、当時ヨーロッパの美術界で主流であった抽象表現主義を吸収し、厚塗りのマチエールの作品を描くようになります。さらに、西欧と日本という、異国で制作する画家として根源的なテーマを自問し続け、理知的でありながら奔放な、色彩にあふれた独自の絵画世界を生み出していきました。
本展では、当館が所蔵する代表作の油彩画と、新たに寄贈された1950年代から90年代の水彩画、版画など約100点を中心に、アトリエに残された資料なども交えて田淵の創作の軌跡を振り返ります。