ヨーロッパで生まれたデザイン様式、アール・ヌーヴォーとアール・デコは、19世紀末から20世紀初頭にかけて、さまざまな美術のジャンルを巻き込みながら、広い地域に影響を及ぼしました。アール・ヌーヴォーの源泉の一つは日本の伝統工芸だともいわれており、逆輸入されたこの様式は、わが国においても新しい流行を巻き起こしました。この様式は、日本の工芸界にも大きな影響を及ぼし、伝統工芸に収まりきらない工芸美術分野の革新を後押ししました。
髙橋節郎(1914-2007)は、伝統的な漆工の世界に、型に縛られない自由な表現方法を取り入れ、現代的な芸術作品を制作しました。髙橋は大正3(1914)年、長野県南安曇郡北穂高村(現 安曇野市)に生まれ、昭和8(1933)年に、東京美術学校(現 東京藝術大学)工芸科漆工部に入学しました。在学中より意欲的に作品を制作し、昭和15(1940)年、同校研究科を修了、この年開催された紀元2600年奉祝美術展に入選してからは、文展、日展を主たる発表の場としました。
髙橋節郎が学んだ時代の東京美術学校では、色漆を使った新しい漆作品を制作する熱心な教授陣が指導にあたっていました。工芸の革新をめざした団体である「无型」に参加した松田権六・山崎覚太郎・磯矢阿伎良らもまた、漆工の分野にアール・デコの様式を取り入れました。彼らから直接指導を受けた髙橋の作品にもまたこの新しい様式の影響が垣間見えます。
本展は、東京国立近代美術館工芸館所蔵のヨーロッパのデザインや工芸約50点とともに、髙橋節郎の作品を紹介します。
なお、本展は東京国立近代美術館工芸館所蔵作品巡回展により実施します。