アラーキーの愛称で親しまれる写真家、荒木経惟[あらき・のぶよし](1940年- )の作品を紹介する展覧会を開催します。本展覧会は、これまでに様々な出会いを経験してきた荒木が、近年、彼自身の「往生」を意識し始めたことを機に企画されました。
テーマは「顔」「空景」「道」。荒木は、デビュー作《さっちんとマー坊》以降、出会った人々の一瞬の表情を捉えた写真を数多く発表してきました。また、妻・陽子の入院先の病室から空を撮影したのを機に「空景」を撮影し始め、現在も朝の空の撮影を日課としています。これら「顔」や「空景」の作品に共通するのは、現実世界をリアルに切り取る写真表現の強度を保ちながら、対象に愛と慈しみの視線を投げ掛けて、その親密なコミュニケーションの跡を作品に残そうとする荒木の姿勢です。
他方、彼は2000年代に入り前立腺癌を発症。09年にはガン宣言を行い、摘出手術も経験しました。さらに翌10年には、妻亡きあと唯一の家族であった愛猫チロの死に直面。11年には東京都内で東日本大震災を迎えます。展覧会場では、前半に「顔」や「空景」の代表的な表現を辿り、その後に「道」の章としてガン宣告以降の作品をご覧いただきます。
荒木は「人生は特別なものではなく、日々の出会いの積み重ねである」「しかし、人は様々な道を生きる」と語ります。日常の過ぎ行く一瞬を切り取る写真は、荒木にとっては人生への深甚な想いを託すべき媒体なのです。この機会に、日本を代表する写真家、荒木経惟の鋭敏な感覚が捉えた豊かな「生」の表現に触れていただければ幸いです。