1904年鹿児島市に生まれた海老原喜之助は19歳で渡仏し、パリで藤田嗣治を師とするや早々にデビューを果たした早熟の才能です。雪景色の連作など1920年代末から30年代はじめの制作は、「エビハラの青」と称賛された色彩に代表される清新な感覚が評価され、エコール・ド・パリの次を担うひとりと期待されるまでとなりました。
1933年に帰国した海老原は、名作《曲馬》(1935年、熊本県立美術館蔵)で母国の洋画界に衝撃を与え、詩情あふれる洗練された作品を相次いで発表。とくに若い画家たちの熱烈な支持を受け、彼らのパレットを一変させたといわれます。第二次世界大戦末期には、郷里に近い熊本県内に疎開し、戦後も人吉市、熊本市と15年にわたり居住。南九州を拠点に後進の鍛錬と地方文化の振興に奮闘しながら、記念碑的な作品群を生み出しました。そして1960年代に入り、あらためて「一兵卒」としての再出発を期し、九州を離れ神奈川県逗子へ、さらにはフランスへと挑戦の場を求めましたが、惜しくも1970年、パリで66年の生涯を閉じます。
画家の生誕110年を記念した久々の回顧展である本展では、油彩画の代表作約80点のほか、版画や陶彫、陶器の絵付、近年発見された膨大なデッサン群からの紹介も交えた出品で、熾烈な画業の全貌に迫ります。