資生堂ギャラリーでは、昨年永眠したグラフィックデザイナーでアートディレクターの中村誠(1926-2013年)の回顧展「中村誠の資生堂 美人を創る」を開催します。
中村は1949年に資生堂に入社。1950年代半ばから80年代にかけて数多くの広告を手がけてきました。国内外で多数の賞を受賞しているほか、MoMA(ニューヨーク近代美術館)に作品がコレクションされるなど、世界的にも高い評価を受けています。本展は、中村誠の資生堂時代の仕事を詳細に振り返る、没後初めての回顧展となります。
中村の功績は、戦前に確立された資生堂のイラスト広告を写真広告へと転換させたこととされてきましたが、その仕事をつぶさに見ていくと、戦前のイラスト表現の伝統を色濃く受け継ぎながら、製版の工夫や大胆なトリミングなどの手法を用いて、写真を素材とする独自の表現スタイルを確立していったことがわかります。
また、中村は「一業、一社、一生、一広告」をモットーに企業デザイナーという立場を貫き、「企業のアイデンティティーをビジュアライズするのがアートディレクターの仕事」と語っていた通り、生涯、企業イメージの創出に力を注ぎました。「計数に表現することのできない表情とか、雰囲気、空気感」を大切にしてきたという中村のデザインには、すべてを描き切らないことで生まれる「間」や「気配」が存在し、その美しさが企業のアイデンティティーを宿していたのだと考えられます。
本展では、中村の創作プロセスを自宅に遺されていた未公開資料を交えながら明らかにし、彼が生涯追求し続けた美の世界と、企業とデザインの豊かな関係を紹介します。