歩く僕と遷 (うつ) る風景―自然と景観をめぐる100年
2014年、茅ヶ崎市美術館では近代日本の風景画の展開をテーマとして、春季と秋季の企画展をおこないます。春季の企画展では、生誕150年となる夭折の絵師・井上安治(いのうえ・やすじ 1864~1889)の代表作である<東京真画名所図解>を中心に、その師である小林清親(こばやし・きよちか 1847~1915)と安治の弟弟子となる茅ヶ崎ゆかりの土屋光逸(つちや・こういつ 1870~1949)の作品を紹介します。最後の浮世絵師ともよばれた小林清親は、1876(明治9)年の夏から、のちに<東京名所図>と総称される木版風景版画を刊行しました。これらは従来の浮世絵の表現とはまったく異なり、遠近法や陰影法など西洋絵画的な空間表現をとりいれた斬新な画風であったため好評を博しました。井上安治は清親が<光線画>ともよばれた<東京名所図>の連作により新時代の人気絵師として活躍していた1878(明治11)年、最初の門人として清親に師事します。その後、1880(明治13)年6月、数え17歳の安治は師の後援を得て3点の木版風景版画を刊行して世に出ました。そして翌1881(明治14)年、この年に師・清親がふっつりとその制作をやめた<東京名所図>を引き継ぐように<東京真画名所図解>連作の刊行を開始します。<東京真画名所図解>は総数130図を超える組物で、その多くは葉書ほどの大きさであり、全体の五割弱は師・清親の<東京名所図>に酷似した構図が用いられています。しかし、師の構図にそった作品であっても、画面を小型化する際になされるモチーフの取捨選択や背景の処理などに個性を表しています。また、安治自身の構図による作品も含め、画面から滲み出る情趣には独自のものがあります。今回の展覧会では井上安治の<東京真画名所図解>134図のほか、小林清親の<光線画>作品や師風を継いで夜景を得意とした土屋光逸の代表作<東京風景>(全12点)などを展示し、伝統的な技法によりながらも新しい表現方法をもちいて風景を探求した絵師たちの仕事を紹介します。