中学生時代に「版」と出会い、その奥深さに魅了された海野光弘氏は、独学で版画を学び、豊かな観察眼で幼い頃から見慣れた風景や、身近な出来事などを題材に版画制作に没頭していきます。高度経済成長期を迎えて急速に価値観が変わっていく中、1960年代から抽象版画が主流になりはじめ、自身の版画制作の方向性に迷いもがくようになります。自己の精神世界の葛藤を表現した「壁」や、心の奥底にある本質をえぐりだすような「裂像」「蘇像」には、張り裂けそうな心の叫びと、迷いの果に光が見えた前向きなエネルギーが感じられ、観るものの心を激しく揺さぶります。
苦悩し自己とせめぎあいながらも、木版画に自己の表現を求めた氏の見えない心の内を表現した作品や人物をモチーフにした作品などを中心に紹介します。