先人への憧れから描きはじめた画家が、また次世代に影響を与えていく。本展ではそんな師弟の系譜を、当館所蔵品の中から、木村探元、黒田清輝、藤島武二などの例を通してたどります。
黒田清輝の系譜の一つを見てみましょう。東京美術学校の生徒の一人が、藤田嗣治です。しかし、藤田は黒田の教えに従順なだけの弟子ではありませんでした。それゆえ、新時代のエコール・ド・パリの寵児 (ちょうじ) となりえたのでしょう。そして、直接的な作風の影響はあまり見られませんが、弟子の海老原喜之助には、オリジナリティを何より尊ぶ藤田の精神が引き継がれています。さらに、エコール・ド・パリの第二世代として活躍した海老原の薫陶を大いに受けたのが、大嵩禮造です。南国鹿児島生まれにもかかわらず、青や白といった寒色系の色調を追究し続けた彼の姿勢には、師の影響があったに違いありません。
師匠は己のすべてを伝授するものでもないでしょうし、弟子もすべてを踏襲するわけではありません。継承されるもの、されないものがあり、迎合・反発があり、そこには人と人のコミュニケーションがあるはずです。また、近代絵画の流れというものは加速していくため、後代になればなるほど、表面的な作風の影響というよりは、根幹にかかわる理念の影響の割合が増してくるように思われます。
どんな巨匠といえども、突然変異のように自然発生するものではありません。師弟の系譜をたどることで、画家が創造するということの意味を考える展覧会です。