日本では、山は風景画の画題として古来好まれてきました。山という一つのテーマに沿って各時代の作品を鑑賞することで、山を見つめた画家たちの眼差しや日本の風景表現の変遷を感じ取ることが出来るでしょう。
古くから描かれてきた山の絵として、まず山水画が挙げられます。古代中国で成立し日本に伝播した山水画は、中国由来の理想的な山河を主題として室町時代以降に主に狩野派の絵師たちによって描かれました。江戸時代に薩摩藩の御用絵師として活躍した木村探元も多くの山水画を残しています。一方、探元の《富嶽雲烟之図》は山水画とは違い現実の風景を実物に則して描こうとしており、江戸時代後期の日本画における客観的な実景描写の萌芽がうかがえます。
他にも、日本独特の風景描写には江戸時代に浮世絵のジャンルの一つとして人気を博した名所絵があり、庶民に親しまれた名所としての山が透視遠近法を利用した奥行のある空間に描かれ、鮮やかな色彩とともに私たちの目を楽しませてくれます。
また、西洋から油彩画技法が導入された明治時代以降の山岳表現は、和田英作や山下兼秀らによる写生風の自然主義的な表現から、梅原龍三郎や曽宮一念、田村一男らによる山を媒介とした画家の内面世界の表現まで、洋画家を中心に多彩な展開を見せました。こうした洋画の展開は近代以降の日本画にも影響を及ぼし、ライフワークとして桜島を描いた日本画家西山英雄の作品には、重厚でエネルギッシュな表現が見られます。
時を越えて山を愛でる、それぞれの作家の試みをお楽しみ下さい。