鹿児島市出身の松方幸次郎(1865~1950)は、川崎重工業や神戸新聞社の社長を務め、そこで得た莫大な個人資産を、惜しげもなく美術品の収集に費やしました。彼は熱心な美術愛好家というわけでもなく、ただ西洋美術を目にしたことのない日本の若者たちに本物を見せてあげたいという一念から、コレクションを作りあげていきました。1916年からの約10年間で作品群は1万点を超えましたが、その後、一部は国内外へ散逸、また火災で焼失し、全容については現在も研究が進められています。
また今年は、鹿児島市立美術館新装開館へ向けた準備室が西洋美術作品の収集を始めてから、30年目を迎えます。中央から離れた南端の地方都市で、優れた西洋美術に接する拠点を作り出すという建設の理念の下、取り組んで参りました。いまや版画や素描も含めると600点を超えるコレクションに成長し、多くの来館者にお楽しみいただいています。
今回の展覧会は、全国の美術館等から松方コレクションを始めとする名品の数々を拝借し、当館のコレクションも織り交ぜ、松方の生きた19世紀後半から20世紀前半の西洋美術の流れを概観するものです。アカデミスムや印象派から、エコール・ド・パリやシュルレアリスムまでの目まぐるしい様式変遷をお楽しみください。
「多くの人々に西洋美術の名品と触れ合ってほしい」。その規模こそ異なるものの、両者が抱く理念は同じものです。この夏、松方幸次郎と鹿児島市立美術館が抱き続けた夢が、一つに重なり合います。