神社の社頭景観を描いた「宮曼荼羅 (みやまんだら)」は、その場に鎮座する神々を視覚化したもので、礼拝対象として数多くの作例が描かれました。中でも、春日大社 (かすがたいしゃ)、日吉山王社 (ひえさんのうしゃ)、石清水八幡宮社 (いわしみずはちまんぐうしゃ) を描いた宮曼荼羅は現存作例も多く、厚い信仰を集めたことが窺えます。宮曼荼羅に描かれた景観には実景が反映され、当時の人々の景観認識、空間把握の精度の高さには驚かされます。
中世末から近世にかけては、熊野や伊勢、富士、清水寺といった信仰の場へ参詣する人々が増え、参詣の賑わいを描く「参詣曼荼羅」が数多く描かれました。一方、神社で行われる特定の行事を描いた「祭礼図」も制作されました。日吉山王祭礼図、祇園祭礼図、豊国祭礼図など、土佐派や狩野派による近世初期の優品が数多く伝わります。
本展覧会では、このような社寺の風景を描いた作例に注目します。信仰の裾野の広がりと共に、描かれる風景や表現も様々に展開しました。宮曼荼羅から祭礼図への流れをたどると、そこに通底するのは、観者を絵画空間へ誘う聖と俗のあわいの世界です。中世から近世初期にかけて表現された様々な風景を通じ、画中の人々の息吹や賑わいを感じ、絵画世界に入り込んで頂ければ幸いです。(担当 古川攝一)