森鷗外の短編小説『天寵』の主人公M君のモデルとなった洋画家、宮芳平(1893-1971)。昨年度に開催した企画展「生誕120年 宮芳平展」で、油絵をはじめ、ペン画、水彩画、デッサンなど宮の画業の全貌を紹介したが、今回はそのなかで特に銅版画作品に注目する。
宮の銅版画は、いずれも掌のなかにおさまるほどの小作品が多く、エッチングを用いた繊細な描線が特色である。これらは絵具を塗り重ね、彩り豊かな色彩で表現する油絵とは全く異なり、モノトーンのなかに、自由で閑かで、どこか哀愁を背負う宮独自の感性がむきだしとなっている。今回は小さな宝石を愛でるように、宮の紡ぎ出す世界観に浸っていただきたい。