英語教師を務めるかたわら創作活動に励んだ川上澄生にとって、身辺静物は格好のモチーフでした。なかでも時計、ランプは川上澄生の重要なモチーフのひとつであり、幼少年時代への想いや文明開化への郷愁を感じさせるものです。愛蔵品や自分の好きなモチーフを並べることで生み出される静物の世界には、身辺静物に対する作者の温かいまなざしとこだわりが感じられます。そのことは、自身が描く静物について「僕の静物は人工の世界であるのです」とし、「光とか影とかいふことは問題でなく僕の絵は西洋画流でもなければ日本画流でもなく木版画であるより他に致方がありません」(「版画三十年(我流身の上話)」より 『民藝』5月号 1944年)としていることからも強く感じられます。川上澄生は静物によって自身の理想を体現し、晩年にいたるまでその画境を極めました。
本展では、独自の視点から生み出された身辺静物の世界を紹介します。また、愛蔵品やスケッチを展示することで川上澄生の身辺静物へのまなざしに迫ります。