小作農の家に生まれた亡き祖父は、自身の日記の中で“やわらかき若草を背に仰向けば空ゆく雲と流れたくおもう”と語った。
いまある自分は祖先や先輩の偉業のおかげと感謝し、自らも農業を続けた祖父のその一文が忘れられない。遥か昔から日本人が生業としてきた米づくりのフィールドである「田」で、人々は何を思い、何を目にしてきたのだろう。
毎日労働に勤しみ、苦しみに心と身をふるわせ、祖父のように空を眺め夢を抱き、またそれを土に埋めて…。
故郷に広がる田を眺めていると、その土地に身を捧げ、働いてきた人々の残像や痕跡を追いかけてみたくなった。
そんな田で繰り広げられてきた営みを思い、作品制作に取り組んだ。