岸田劉生(1891-1929)は、近代の日本美術において最も個性的な画家のひとりです。東京・銀座に目薬「精錡水」の販売元楽善堂を営む父母の元に生まれ、38歳という短い生涯にもかかわらず、画家として極めて振れ幅の大きい道程を辿りました。
17歳で白馬会の洋画研究所(赤坂葵橋研究所)で黒田清輝に外光派の画風を学び、20歳の時、『白樺』同人との交友でゴッホやセザンヌを知り、多大な影響を受けます。23歳で娘麗子が生まれてからは、愛情を込め多くの麗子像を描き、一人娘への愛情表現を芸術作品に昇華させ、美術史に大きな足跡を残しました。この頃より、デューラーからの「クラシックの感化」が強まり、精緻な写実を追求し、物や人物の存在を深く見つめる「内なる美」の探求に進みました。のちに一転して大正時代の後半には、宋元画や初期肉筆浮世絵、南画などの東洋的な美に心ひかれて、みずからの芸術に反映させようと試みましたが、耽溺していった生活もあり健康を害し、酒席で倒れ画家の幕は閉じられました。
本展覧会では、《自画像》《麗子十六歳之像》《村娘之図》などをはじめとする数々の代表作に加え、麗子が随所に散りばめられた装丁画も展示し、油彩、水彩素描、日本画、版画作品等に関連資料などを含めた130余点により、劉生芸術の全貌をご紹介いたします。