江戸時代後期、百万人を超える大都市に成長した江戸では、活発な消費文化の上に庶民の大衆芸術であった浮世絵がめざましく発展しました。天明期(1781-89)には鳥居清長が八頭身美人を描き、続く寛政期(1789-1801)には「美人画」を代表する絵師、喜多川歌麿が登場します。歌麿は背景に雲母摺りを施した賛沢な錦絵や、上半身にフォーカスし、細やかなしぐさや表情、さらにはその人物の内面にまでも迫る[美人大首絵」で人気を博します。また鳥文斎栄之は気品ある女性を描き歌麿に追随しました。
歌舞伎などの役者を描く役者絵では、東洲斎写楽が登場し役者の一瞬の表情を大胆にデフォルメした役者絵で世間を驚かせます。一方、写楽と競った歌川豊国は逆に「ひいきの役者は似ていて美しくあってほしい」との庶民の期待に応え、歌川派を役者絵の主流に導きました。文化・文政期(1804-30)に入ると浮世絵も最盛期となり、豊国の画風を受け役者絵を発展させた歌川国貞、艶と意気を具えた美人画を描く渓斎英泉など役者絵と美人画の人気と発展は幕末まで続くのです。
本展ではそうした天明・寛政期から文化・文政期に活躍した絵師たちの美人画と役者絵を肉筆画も交え、約一二〇点で振り返ります。歌麿の生きた黄金期の浮世絵の世界をお楽しみください。