抽象芸術の先駆者ワシリー・カンディンスキーは20世紀を代表する画家のひとりであり、その強烈な色彩とファンタジーに富んだ形の世界はいまでもわたしたちを魅了せずにおきません。ロシア、ドイツ、フランスにまたがる彼の足跡は、その独特の骨太の個性で美術の歴史のなかでも確固たる地位を占めています。今回の展覧会は、カンディンスキーがミュンヘンとモスクワを舞台に、徐々に抽象の道へと踏み込んでいった1900年から1920年までの期間に焦点をあて、彼の絵画のスリリングな変貌振りと、画面の端はしにまでみなぎるいきいきとした力を体感していただこうとするものです。
本展は、ロシア連邦と旧ソ連諸国の美術館に所蔵されている作品のみ80余点によって構成されます。これまで世界各地で多くのカンディンスキー展が開かれてきましたが、ロシア内の作品が出品されにくいためいずれも彼の画業の完全な紹介にはなり得ませんでした。幸運にも、今回、12館のロシア連邦内美術館と2館の旧ソ連諸国の美術館から出品されることになった80余点は、ほとんどが日本初公開であり、また世界的に見ても目にする機会の限られてきた多くの重要作品を含んでいます。当館では1987年にもカンディンスキー展を開催していますが、この時の出品102点のうち今回重複するのはわずか5点にすぎず、前回と今回をあわせ、この画家の全貌のほぼ完全な紹介を実現できることになります。
今回何より特筆されるべきは、カンディンスキー自身が生涯かれの芸術の集大成として位置付けていた「コンポジション」シリーズの頂点をなす<コンポジションVI>(1913年、エルミタージュ美術館蔵)と<コンポジションVII>(1913年、トレチャコフ美術館蔵)の2点がともに出品されることです。この2点はかれのミュンヘンにおける抽象絵画探求の到達点といえ、2m×3mという巨大な画面のなか、さまざまな形が、明るく鮮やかな色彩に輝きながら乱舞する様はまさに壮観です。
本展は東京国立近代美術館の開館50周年を記念する展覧会となります。 また、2002年1月にリニューアルオープンしたばかりの本館は、展示面積が約1.5倍に広がったのをはじめ、アートライブラリ、レストラン、ミュージアムショップも新設されました。新しく生まれ変わった東京国立近代美術館で、この「カンディンスキー展」をぜひお楽しみく・・・