木版画家の川上澄生は、日本とヨーロッパの文化が交じり合う「南蛮」や「文明開化」の世界を好みました。その理由として自身は著書のなかで「外国の文化がとり入れられての不協和音的和音、ちぐはぐで居て安心して居られる調和」という部分に関心があると述べています。そのうち、本展では「南蛮」をテーマにした川上澄生の作品を紹介します。
舞台は約500年前の日本。この時代に寄せる川上澄生の好奇心は、かつて船に乗ってやってきたヨーロッパの人々の風俗や舶来品に心惹かれた日本人と同じものだったのでしょう。川上澄生が「南蛮」に関心を持った背景のひとつには、明治末期の文芸や美術での南蛮ブームがあげられます。川上澄生は刊行された南蛮に関する書籍や資料を集め、展覧会へも足を運び、遠い過去の世界に想いをはせました。「南蛮」は川上澄生にとって生涯のテーマであり、晩年まで数多くの作品を制作しました。
まるで舶来品の「遠目金(とおめがね)」(望遠鏡)で、じっくりのぞき込みたいほど細部まで表現された川上澄生の南蛮の世界をぜひご覧下さい。