近代最後の文人画家と呼ばれる富岡鉄斎は、天保7(1836)年京都に生まれ、幼少時から学問を志し、国学や儒学、仏教等を学ぶとともに、書画や詩文を深く嗜みました。幕末のころは勤皇学者として国事に奔走しましたが、明治維新後は神官を拝命した一時期をのぞけば在野の文人として活動し、大正13(1924)年に数え89歳で亡くなりました。
鉄斎の絵画は生前から大変な人気に支えられていましたが、鉄斎自身は常々「わしは儒者であって画師ではない」と語っていたといわれます。しかし、深い学識と研鑚を積んだ確かな画技による鉄斎画の世界は、流派を問わず広く古画から学びながら既成の描法に捉われない自在で独自な画境を示すもので、現代においても新鮮であり、国際的にも高く評価されています。
本展は、画家としての鉄斎の魅力を紹介しようとするもので、その画業を伝統的な南画・文人画を学んだ初期、大和絵や琳派、浮世絵などを積極的に学んだ中期、そして鉄斎らしさを発揮し自由奔放に遊び、熟成した画境を示した後期の三期に分類し構成しています。また、画家としての修練を知る粉本も併せて展示いたします。
なお、本展は鉄斎と親しく交流のあった個人のコレクションを中心に、主要美術館のご協力をいただき構成します。特筆すべきは、中心となる個人コレクションが半世紀ぶりの公開で、かつそのなかには鉄斎の名品として知られるものが含まれていることです。