昭和58年(1983)11月19日に開館した下関市立美術館は、このたび開館30周年を迎えます。本展はこれを記念して、美術館の設立にコレクション寄贈を通じて大きな寄与をなした下関市出身の実業家/文化人・河村幸次郎 (かわむらこうじろう) (1901~1994) の足跡をご紹介いたします。
河村幸次郎は、第二次世界大戦前、下関の三大呉服商のひとつと称された伊勢安 (いせやす) の経営を継いで下関に商業人として活躍。戦時中には繊維製品の配給統制に手腕を揮い、東京に拠点を移したのちも長く繊維業界に重きをなしました。一方で、若き日から芸術を愛し、美術、文学、音楽、民芸など、かかわりを持った分野は多岐にわたります。戦前の下関では、自ら奏者として参加した海峡オーケストラの結成、文芸誌『燭台』発行への参画、河豚笛をはじめとする郷土玩具の開発など、関門地域に新しい文化を育て発信しようとする意気を示しました。また、下関に往来する数々の芸術家や文化人を自邸などで歓待。関東大震災ののち、下関長府に帰っていた日本画家・高島北海と出会い、その五女・園を妻として晩年の北海を見守ったのも河村でした。
美術コレクターとしての歩みは、交流のあった竹久夢二の作品蒐集を手はじめに1930年代から本格化し、戦後にかけて岸田劉生や藤田嗣治など日本近代絵画、そして古代オリエント工芸へと対象を広げます。
このたびの展覧会は、下関市立美術館所蔵の<河村コレクション>からできる限り多くの優品を出品するとともに、多彩な活動を物語る資料、河村自身が手がけた図案などデザイン分野の仕事にも光を当てた構成となります。