当時から京都画壇を率いる大画家として,「百世にも稀な名人」, 「老巧無比の技巧派」と賞賛された竹内栖鳳でありましたが, その制作の裏には多大なる苦労があったことが知られています。西洋絵画に触発され, 日本画に確かな「写実」を導入しようとした栖鳳は, 制作に入る前には主題となる対象を必ず自分の目で確かめたといいます。また動物や鳥はわざわざ自宅に飼って熱心にその生態を観察し, 外形の描写だけではなく, 日本の伝統絵画で重んじられてきた「写意」を意識し, その本質に迫ろうとしました。
残された素描や下絵を見ると, 一つの作品を仕上げるのに, 対象物の写生を何度も繰り返したり, 下絵をいくつも制作し, 構図に推敲を重ねたりしていることがうかがえます。苦労して取材し, 構想を練ったものの, 未完成に終わった作品も少なからずありました。ところが実際, 栖鳳の作品を目の当たりにすると, その迷いのない筆致と巧みな筆さばきには, 推敲や苦心の跡はほとんど見られず, 一気呵成に描かれているように見えます。
本展の中心となるのは, 栖鳳の制作過程において生み出された当館所蔵の下絵や写生帖です。下絵は, 完成作ではうかがい知れない試行錯誤の過程をあらわにしてくれます。また栖鳳が残した100冊を超える写生帖には, 対象の把握に向けて不断に写生を重ねた栖鳳の苦悩の痕跡が垣間見えるとともに, 絵の題材を見つける過程が生き生きと表わされています。
今回は, 栖鳳の絵に効果的に表わされる動き, モチーフの巧みな配置, 主題となる事物の意外な組み合わせといった要素を手がかりに, 栖鳳の下絵を読み解き, その芸術の魅力を探ります。
また, 本展では, 栖鳳の門下や同時代の京都画壇の画家たちの下絵と本画も併せて展示することで, 画家たちの下絵に対する姿勢や個性の違いをご覧いただきます。どうぞ御高覧ください。