日本画家・小野竹喬(1889-1979)は、生涯にわたり日本の自然を題材とした作品を描きました。とりわけ、季節の変わり目における微妙なうつろいや、一日における時間の経過の中での豊かな表情を見出すことを得意とし、それを穏やかな表現で作品に表しました。
竹喬はまた、若い頃より俳句を作ることを趣味としており、松瀬青々 (まつせせいせい) に師事して「魚乙」 (読み方不詳、“ぎょいつ”か) と号し、言葉による創作にも励みました。竹喬が俳句で取り上げたのは、日常的な一場面や、スケッチをするために自然に遊んだ際に見た景色、そこで感じた事柄など多彩です。これらの句は、絵画に表わされた風景とは必ずしも連動しておらず、異なる表現方法を用いる際に、それぞれ相応しい内容が検討されたように思えます。
「春の袖ふるるほとりの絵具皿 (えのぐざら)」、色とりどりの絵の具を溶いた皿を周りに置いて制作しつつ、軽くなった袖に春が来たことを意識する。画家ならではの一句です。俳句においても絵画においても、竹喬にとって「自然」との交感が制作の源となりました。細やかな感性によって捉えられた四季の移り変わりを、それぞれの表現を比べつつお楽しみ下さい。