漢字(真名)の音を借りて、日本語を一字一音で表記する仮名が誕生したのは、4~5世紀の頃にまで遡る。当初は、楷書・行書の単体(男手・万葉仮名)で書写されたが、次第に速く書くことによって草書体(草仮名)となり、さらに書き崩されて優麗典雅な女手(平仮名)が生まれた。そこに、2、3文字、果ては10文字近くも続け書きにする連綿の美しさが加わって、巻子本に調じられるようになった。ところが、室町時代から桃山時代にかけて茶の湯が盛んになるとともに古筆愛好の風潮が高まると、その一巻・一冊が切り離されて断簡(古筆切)となり、掛物となって愛玩・鑑賞された。
その優美を謳われる古筆を展観し、王朝貴族の耽美生活に至上とした「あて(=貴)」(姿の上品でみやびやかなさま)と「たおやか」(形のしなやかで柔らかなさま)という美意識の一端をさぐってみよう。