フランスの北西端、英仏海峡と大西洋に突き出たブルターニュ半島は、古くから特異な文化を育んできました。三方を海に囲まれた複雑な地形と変化に富んだ自然を持ち、先史時代の遺跡や伝承を多く残す独自の文化を形成しています。また紀元前と中世初期のケルト人の移住以降、ブルターニュはヨーロッパ大陸には珍しくケルト文化を継承し、素朴な信仰心に裏付けられた地方色豊かな文化と生活様式を伝えています。そのためブルターニュは「異郷の地」として画家たちに絶好の画題を提供し、19世紀にはゴーギャンらのいわゆるポン=タヴァン派をはじめ、多くの画家が繰り返しこの土地を訪れました。
ブルターニュ半島フィニステール県の首都カンペール市には、1872年より続くカンペール美術館があります。コレクションにはルネサンス以降の巨匠の作品も含まれますが、注目すべきは19世紀のサロンにも多く出品された、ブルターニュの自然、人間、風俗などを描いた近代の絵画です。これらの作品には、ブルターニュの民衆の生きる喜びや悲しみが平明で手堅いリアリズムで描かれています。これまでなかなか紹介されてこなかったこの「情感のリアリズム」、ブルターニュ絵画57点を是非この機会にお楽しみ下さい。