工芸は人間の身体と深い関わりをもっています。たとえば、人形。形代 (かたしろ) として呪術や祭式に用いたはるか昔から、人形は「ヒトガタ」であることが制作の第一条件でした。何よりヒトガタは、私たちの関心を呼び覚まし、感情移入をたやすくする条件をそなえているようです。また、うつわや着物のように、人体を一種の尺度として、大きさから手触りまで考え抜かれた造形もあります。うつわといっても実に多種多様、手の中に包みこむものから腕いっぱいの大容量まで、「こんな風にしたい」という願いをかなえる形が私たちの生活を豊かにしてきました。一方、着物は身体を保護するだけでなく、表面的に捉えられる模様も、その形状や配置が身体のバランスや動きと連動し、着ている人を洗練して見せる工夫がほどこされています。さらに工芸の制作工程における身体の働きにも注目しましょう。硬い金属をたたきながら輪郭と模様とを同時につくってしまう鍛金 (たんきん)、さわれないほど熱く溶けたガラスを竿にとって息を吹きこむ吹きガラスの技法など、身体動作が引きだすエネルギーを直感的に観察できる作品が工芸には少なくありません。
今展は、この3つの視点から工芸の魅力を掘り下げてご紹介します。夏のひととき、工芸館で頭と心の柔軟体操をお楽しみください。