東郷青児(1897-1978年)は、郷愁を誘う甘美な女性像によって一般に広く愛好された、大正・昭和期に活躍した洋画家です。
1916年、19歳のときに有島生馬の勧めで初出品した第3回二科展で、未来派風の油彩画《パラソルさせる女》を発表した東郷は、同作で二科賞を受賞し鮮烈な画壇デビューを果たしました。以後、新進気鋭の未来派画家として注目を集め、1921年にはヨーロッパに渡り、本場の未来派やダダの運動に参加して同時代の画家達との交流を深めています。
しかし1928年の帰国後は、難解な芸術理論よりも万人に理解される絵を確かな技術で描くことを志すようになり、生涯に渡って「大衆に愛される芸術」を理想に掲げました。そして、二科展への出品と並行して、デパートの壁画や書籍の装幀、様々な企業の商業美術に関わっています。また、戦後は二科会の中心人物として芸術の裾野の拡大にも貢献しました。こうした活動は、通俗的であるという批判の対象にもなりましたが、芸術家としての東郷の業績から切り離して考えることは出来ないでしょう。
本展覧会では、油彩画や素描など約110点にデザインの仕事を加え、あわせて200点を超える作品と資料により、時代を魅了した東郷の多様な業績をご紹介します。