四季の明確な日本では、古くから折々に咲く花々を愛でる風習が根付いています。季節の草花は、調度品や着物といった身近なものの意匠としてだけでなく、和歌や絵画の題材としてもしばしば用いられてきました。
今回の展覧会では、数ある収蔵品の中から牡丹が描かれている作品を中心に展示いたします。牡丹は“富貴花”や“百花の王”など数々の異名を持ち、高貴で気品のある花として広く知られています。また、清少納言が平安時代中期に執筆した随筆『枕草子』の中には、既に牡丹の名が登場しており、我が国ではたいへん歴史のある花とも言えるでしょう。近代に入ってからは新しい感覚をもった作家たちによって、牡丹の華やかな姿が個性豊かに表現されてきました。
牡丹をはじめ花の描写を得意とする松尾敏男の「花王」では、一輪の白牡丹の優雅な姿が淡く柔らかい色彩で表現されています。また、その弟子である松本高明の「花王図」では、画面に金箔と部分的に金泥を塗付し、色鮮やかな牡丹を一層華やかに演出しています。
本展覧会では、多くの花が咲き誇るこの時期に合わせ、花々の美しさと作家たちを虜にした百花の王、牡丹の魅力に迫ります。ぜひこの機会に、先人たちが愛でた花々の魅力を肌で感じていただければ幸いです。