奈良斑鳩の里にある世界文化遺産・法隆寺は、聖徳太子にゆかり深く、渡来した仏教文化が花開いたわが国随一の寺院です。なかでも金堂の内部は極彩色の絵で荘厳されており、四方を囲む大小十二面の壁画は仏教美術を語るうえで最も貴重なものでした、しかしこの壁画は、昭和二十四年不慮の火災により一部を除いてことごとく焼損し、今日、金堂内に見られる壁画は昭和四十三年に模写再現されたものです。
ところがこれに先立ち、明治時代から三十年以上の年月をかけて単身金堂壁画模写に取り組んだ仏画家がいました。秋田県・太田町出身の鈴木空如がその人です。空如は東京美術学校卒業後、世界的遺産である壁画を後世に遺すことこそ自らの使命と考え、誰の援助も得ず独力で全十二面の原寸大模写を完成させるという偉業を成し遂げます。空如の生涯は、画壇の隆盛にかかわることなく、世俗の名誉と利益を離れ、一貫して仏教が目指す永遠の価値を求めつづけるものでした。深い信仰心によって支えられたその画業は、画人の希有な歩みとして遺されています。
本展では、法隆寺金堂壁画模写のほか、国宝模写、奉安仏画など100点を超える作品を一堂に会し、信仰の仏画家鈴木空如の画業と生涯をたどります。