遠い昔、古代ギリシアでは壁面に映った恋人の影をなぞって、その姿を映し取ったことから絵画は生まれたといいます。西欧では、伝統的に風景よりも人物を描くことに重きが置かれ、美術学校ではまず人物を正確に描写することから手習いを始めます。美術表現の基礎には、人の姿がまず存在していたと言えましよう。
古今東西を見ても、美術家たちは自らを凝視する一方で、恋人や家族、友人・知人に愛情あふれる視線を注いできました。また、身近な人物だけでなく自分たちの属する社会や風俗を眺めたり、あるいは旅人の目で異国の見知らぬ人々を観察したりもしています。さらには、様々な人間の姿や形を発想の源として、美術家たちは自分自身の独自の手法を追究し、固有の世界観や思想を作品として顕わにしています。
今回の展覧会では、「ひと」の姿・かたちを巡る興味の尽きない表現を、新潟県立近代美術館・万代島美術館の6000点を超える所蔵作品の中から選りすぐり、取り上げます。