猪熊弦一郎(1902-1993)は、70年の画業のなかで幾度か作風を大きく変化させました。初期の写実的な人物像、戦後の幾何学的な抽象画、晩年の顔の連作と、年代を追って作品を並べても、まるで複数の画家の作品を見ているかのようにバラエティーに富んでいます。一方で、全く違うイメージのなかに、モチーフ、構図、色のバランスなど、共通する部分も見受けられます。
本展は、猪熊の画業を回顧し、新しい美の表現を求めることで作風が変化し続けた猪熊芸術において、逆に、変わることのなかった「猪熊らしさ」に注目するものです。作風の違う作品を隣り合わせ、特徴ごとに展観することで、変化と不変の両面からその魅力をお伝えします。
また、本展では、香川県立ミュージアムの所蔵する猪熊の秀作約30点を中心に、当美術館所蔵品とあわせて展示します。香川県民の財産ともいえるこれらのコレクションを一堂に会して、猪熊芸術を一望するまたとない機会となることでしょう。