正宗は、鎌倉時代末期、幕府の所在地であった相模国鎌倉において鍛刀した名工です。正宗は従来の京都や備前の製作法と異なり新しい方法を取り入れ、豊かな創造力によって、きらめく沸の表現に工夫を凝らし、人々を魅了してきました。
鎌倉時代中期にはすでに京都や備前など主に西国において名工が多く輩出していました。幕府は蒙古襲来に備えて国力を結集、武勇の高揚を鼓舞し、その国策と気運の高まりは豪壮華麗な太刀を生み出しました。文永・弘安の二度にわたる蒙古襲来は甚大な被害と国難をもたらし、三度目の襲来の風聞に、沿岸防備の対策とともに、幕府や朝廷は全国の神社仏閣に敵国調伏の加持祈祷の指令を頻繁に発しました。正宗はこの時代背景のなかで世に現れました。
正宗には銘のある作がきわめて少なく、多くが無銘です。そのため本展は、正宗の師匠の系統、正宗とその弟子たち、さらに正宗の再現をもとめて苦心をかさねた刀工たち、二十一名の名工と五十余点の名作を一堂に展示し、相州伝法の流れを追うことにより、正宗の存在とその真価を顕彰しようと企画しました。