中国ではおめでたいとき、たとえば春節とか結婚式とか、子どもが生まれたときなどに、神様の画像を家に飾って、幸福を祈るという習慣がありました。神様といっても日本のものとは大きくちがい、道教(どうきょう)という人々の生活に根づいた民間信仰の神々です。
こうした中国の土着信仰は、江戸時代には長崎をつうじて日本へ伝わりました。長崎には、貿易のため多くの中国人が行き来していたので、自然とそうした習慣が根づいたようです。また、道教は現世の幸福を願い、神仙のような不老長寿をめざすシンプルな信仰ですから、外国人でもとっつきやすく、なおかつエキゾチックであるところが日本人に喜ばれたのでしょう。
たとえば長崎の画人・荒木千州(あらきせんしゅう)が描いた「福禄寿三星図(ふくろくじゅさんせいず)」は、日本へ伝わった代表的な道教の画題です。中央に立つ天官(てんかん)が、立身出世してお金持ちになる「禄」をあらわし、左で頭巾(ずきん)をかぶるのが、子どもがたくさんできて家が繁栄することを象徴する福星。右側で桃を持つのがおなじみの寿老人で、健康と長生きのシンボルです。3人あわせて「福禄寿」となるわけです。
また、中国の伝説的な英雄たちの画像も、同じように長崎から日本中へとひろまりました。『三国志』で有名な関羽(関帝)などはその代表的な例ですが、今回は同じ『三国志』に登場する天才軍師・諸葛孔明(しょかつこうめい)の珍しい画像を初公開します。やはり長崎で活躍した河村若芝(かわむらじゃくし)の作品です。
本展では、江戸時代に長崎を経て伝わった中国趣味の道教画、隠元(いんげん)禅師が伝えた黄檗(おうばく)宗の仏画、沈南蘋(しんなんぴん)スタイルの写実的な花鳥画などをまとめて展観いたします。