漆の美を追求し、その表現を拡げた増村益城(ますむらましき)[本名・成雄(なりお):明治43年(1910)~平成8年(1996)]は、熊本県上益城郡益城町に生まれました。熊本市立商工学校漆工科を卒業後、奈良で辻永斎(つじえいさい)に師事し、仏具などを制作する一方、古美術の傑作に触れて、その塗りと造形を研究しました。二年間の修行を経て22歳の年に上京し、赤地友哉(あかじゆうさい)に師事し、「髹漆(きゅうしつ)」(漆を塗る技法)を学びました。
増村は早くから美術工芸家を目指し、日本漆芸院展、新文展(後の日展)などへ積極的に出品して入選を果たし、戦後は日展に出品する一方で、漆に関する研究会を自宅で開いたりしました。
昭和31年、46歳の年に、第三回日本伝統工芸展へ初出品し入選、翌年《乾漆盛器》で最高賞である総裁賞を受賞、この後連続して奨励賞、文化財保護委員会委員長賞を受賞し、美術工芸家としての評価を確立しました。以後、同展の中心的な作家の一人として出品を続け、昭和53年、68歳の年に重要無形文化財「髹漆」保持者、いわゆる人間国宝に認定されました。「髹漆」とは、漆塗りによる漆工芸を示す広い言葉ですが、増村はその中の「乾漆(かんしつ)」と呼ばれる、元となる原型の上に、麻布と漆を塗り重ねて成形する技法を得意としました。
昭和57年には千葉県柏市に移り住み、没するまでの十数年間にわたり、柏市を拠点に制作を続け、柏の葉をデザインした《紙胎朱溜葉盤》などの作品を残しました。
増村は、粘土と石膏による独自の造形と、伝統的な塗りの技術を見事に融合させ、現代感覚溢れる優れた作品を残しました。本展では戦前から晩年までの漆作品約90点と、参考資料や道具類、映像記録等を紹介し、漆の表現の可能性を生涯追い続けた、増村益城の世界を紹介します。