神秘の火ともる地、不知火――。この地からは、「ブラジルのピカソ」と呼ばれたマナブ間部、現在、世界的に活躍している版画家 野田哲也、心温まる誠実な絵を描き、今でも多くのファンがいる西村義人、「世代会」で活躍し、郷愁溢れる作品を描いた矢田道也、九州派の一員として、福岡を拠点に制作と芸術運動を展開した働正、大牟田で書家として立った松井翠嵐、ニューヨークタイムズに「世界写真家の5人男」としてベルギーのレオナルド・ミゾンネらとともに選ばれ、米国で高い評価を得た河野浅八ら多くの芸術家が出ています。また、日系2世として米国で生まれ、そこで活躍した画家、野田英夫は、両親が不知火に帰国し、自身も日本に帰った際は度々不知火を訪れていました。ちなみに、野田英夫は、野田哲也の伯父で、墓も不知火にあります。
では、特に何の変哲もない狭い地域から、なぜこのように多くの芸術家が輩出されたのでしょうか。偶然なのか、何か気候的、地理的にその土壌があるのか、あるいは歴史的なものなのか。それとも、もしかすると、不知火の人々が、神秘の火を太古の時代から見続けているうちに、いつのまにかロマンの心情と創造の感性を育んで来たのかもと、想像は尽きません。
今回は、その不知火ゆかりの画家、彫刻家、書家、写真家14人の作品を、不知火美術館と熊本県立美術館の所蔵作品から約50点を選び展示します。その謎を思い思いに想像しながら、どうぞ、個々の作品の魅力をお楽しみください。