富士山信仰は江戸時代、長谷川角行(一五四一-一六四六)の登場により新たな局面を迎えました。民衆宗教としての富士講の発生です。足利においても田中町の浅間山の初山参りや麦藁竜の頒布など、富士講の習俗が根付きました。さらに足利市北郷地区には江戸時代、富士山信仰の拠点であったことを示す貴重な史料が複数伝わっています。なかでも富士山信仰を描いた絵馬では県内最古の《家族参詣図》(一八六〇年)や木製の《赤富士御影》は特筆に価します。当地には、角行が壮年期と最晩年の二回にわたり滞在し、富士山信仰を広めたという伝承もあり、三ヶ所に富士山を祀る仙元神社があります。富士講は次第に秘教化し、幕府による弾圧もありましたが、三社の仙元神社は立体曼茶羅というべき構成をなし、講中の祈りとくらしを支えてきました。
本展は、北郷地区をはじめ足利に伝わる富士山信仰を足利民俗セミナリー、足利絵馬の会の協力により紹介するものです。足利と富士を結ぶ隠された祈りの歴史を紐解き、現代に脈打つ信仰を紹介いたします。
なお、雲上の浄土と称される足利の浄因寺でこのたび発見されました行道山みくじを特別出品いたします。