当館では平成十一年度につづき昨年度も、須磨未千秋氏より尊父弥吉郎氏が収集された美術品の寄贈を受けました。弥吉郎氏は昭和二年から十二年までのあしかけ十一年間、外交官として中国に駐在されました。その間、自らも画をよくする氏は、当時新進の画家たちと親しく交わり、その交際のなかで収集された中国近代絵画はわが国随一の内容を誇っています。また、氏の審美眼は書画にとどまらず彫刻や陶磁器にもおよびました。ここに紹介する「せん仏」もそのひとつです。
菱形の右角を断ち落とした五角形をなすこのせんは、縦が五八センチある大きなもので、表面いっぱいに飛天が浮き彫りされています。エキゾチックな姿をした飛天の姿には西方の影響をみることができます。これは中国河南省安陽県にある修定寺の方形塔の表面を飾っていたものです。この塔には門の額に唐時代の咸通十一年(八七〇)の年紀があり、せんもその頃から十世紀のはじめにかけて製作されたものと考えられます。
今回の展示では須磨コレクションの中核をなす中国近代絵画および書跡の精品とともに、これら中国彫刻の優品数点も加えて展示いたします。