川上澄生は渡米中の20代前半、商業美術家を志していた時期がありました。ちょうどその頃、大正時代の日本では竹久夢二の優美なデザインが若者の心を捉え、デザイナーが職業として台頭してきた時代でした。川上澄生の作品にデザイン的な要素が見られるのも、商業美術に対する意識と、そうした時代の影響が考えられます。
英語教師の道に進んだ川上澄生は木版画制作に励む一方、自ら楽しみながら日常生活を彩るデザインを数多く生み出しました。そのモダンなセンスを活かし、身近な人々のために帯やネクタイ、器や暖簾(のれん)など、日々の生活を豊かにする図案を生みだしました。このほか、多くのブックデザインを手掛け、栃木県内外のお店の包装紙やメニュー、ブックカバーのデザインを手がけるなど、実際に商業美術の分野でも活躍しました。
本展は、川上澄生が日々の暮らしに根ざした視点でデザインした約90点の作品や資料によって、デザイナーとしての川上澄生の仕事にスポットをあてるものです。また、竹久夢二、杉浦非水、恩地孝四郎らが手掛けた大正~昭和初期のブックデザインを同時に紹介し、川上澄生若き日の時代の香りを感じていただけます。