今年は5月に東京スカイツリー、6月に赤レンガの東京駅丸ノ内駅舎が開業します。今、まさに東京の「街並み」に注目が集まっています。
明治時代の中ごろの横浜に生まれ、青春時代を東京で過ごした木版画家川上澄生は、その豊かな感受性によって、明治、大正、昭和の時代を描きました。
川上澄生の作品のなかでも明治時代の文明開化がテーマの作品は、「横浜絵」と呼ばれる版画や明治時代の教科書や資料を基に自らが再構成した世界がほとんどです。そこには横浜海岸通りの洋風建築や新たに洋装を取り入れた人々の姿が生き生きと描かれています。
大正時代の街並みは、1923年(大正12)8月の横浜でのスケッチを基に、実際に見た風景を版画にしています。しかし、その後の関東大震災によって、横浜の街は一瞬にして瓦礫と化しました。大正時代の横浜を描いた作品には、思い出深い街並みを失ってしまったさびしさを感じさせる作品があります。
昭和に入ると、川上澄生は震災から復興するきらびやかな東京の街並みを「新東京百景」のなかに描きました。そのなかには赤レンガ造りの東京駅を描いた《丸ノ内曇日》もあります。また、栃木県宇都宮の洋風建築も数多く描いており、文明開化の香りが残る街並みが描かれました。そこからは昭和初期のモダンで華やかな雰囲気を感じ取ることができます。
本展は川上澄生が愛した街並みとして、とりわけ東京、横浜、宇都宮にスポットを当て、今につながる「街並み」の姿を紹介するものです。