金重有邦(ゆうほう)は、昭和25(1950)年、岡山県備前市伊部に、陶芸家、金重素山(そざん)(1909~95)の三男として生まれ、武蔵野美術大学で彫刻を学んだのち、父のもとで陶芸を始めました。父、素山は、備前焼中興の祖とされる兄、陶陽(とうよう)(1896~1967)とともに、桃山時代に焼造された古備前の土味と焼け成りを求めてその再興に尽力し、現代の備前焼の展開に大きな影響を及ぼしました、
有邦もまた備前焼の歴史、伝統を尊重し、茶陶の制作に軸足をおいています。その一方で、独自の作風を展開し、2002年頃からは、陶陽が見出した上質な「田土(たつち)」の代わりに、自ら吟味した「山土(やまつち)」を用い、新たな登窯を築いて焼成してきました。山土は、田土にくらべて可塑性が低く、一気呵成に仕上げることになりますが、土に寄り添うがごとくの造形は、有邦の轆轤のリズムと、土の素朴な味わいとの融合を見せています。また2006年の大甕制作を経て考案した紐作りと轆轤を組み合わせる成形法は、フォルムの自在さやダイナミックな焼け成りなど、作品に重厚さをもたらしています。作家の試みは、桃山備前を拠り所としてきた近現代の造形観からの離脱であり、焼締め陶の「土」と「焼き」の魅力を再発見させてくれるものです。展覧会では、この10年間に制作された作品のなかから厳選したおよそ60点の花入、水指、甕、茶器、茶碗を展観し、作陶の変遷と深まりをご覧いただきます。