今日も盛んに描かれ、わたしたちにとっても身近な、はだかの人物を描く絵画。
しかし、全裸(またはそれに近い半裸)の人物を美術作品として描き表し、それを公の場で鑑賞するという風習は、明治も半ば過ぎ、おもにフランス経由の「異文化」として日本に入ってきた、比較的新しいものです。以後、今日のようにすっかり定着するまで、多くの画家たちが、はだかの人体を表現するための方法をいろいろと探ってきました。
「美術にエロスは必要か?」
「両者のちょうどよいつりあいは?」
「そのつりあいが適切か否かを決めるのは誰なのか?」
鑑賞者や警察を巻き込んで、そんな議論が続く中、画家たちは、寝そべらせたり逆立ちさせたり、手足を引き伸ばしたり縮めたり、変った色で彩ったりと、はだかに対してさまざまな造形上の工夫を施しました。
この展覧会は、今日でもアクチュアルなはだかと美術をめぐる問題の原点を、1880年から1945年までの油彩作品、約100点によって探る、これまでにない試みです。重要文化財からあまり知られることのない問題作まで、はだかを軸に据えると、日本の美術の歩みに思いがけない光景が見えてきます。