写真にしか表現できない「ちから」がある…写真があまりにも身近すぎる存在になってしまった現在、霧散してしまったこの直接的な問いかけに真っ向から取り組み、新たな写真表現の地平を探求し続けている写真家、それが鬼海弘雄です。『鬼海弘雄写真展 東京ポートレイト』は、30年以上にわたって浅草の人々を撮り続けた肖像や、都市を独自の視点で写し出したシリーズにより、近年、国際的にも大きな注目を浴びている鬼海の初めての大規模な回顧展となります。
1945年山形県に生まれた鬼海は、映画青年として学生時代を送った大学で哲学を修めた後、トラック運転手、マグロ漁船の乗組員などさまざまな職業を転々とする中、ダイアン・アーバスの作品との出会いが大きな転機をもたらします。アーバスの作品に大きな衝撃を受けた彼は1969年に写真をはじめ、写真家として身を立てる決意をします。以来、現在まで写真表現をひたすら追求することに身を投じてきました。
本展は、強烈な存在感と詩情をあわせもつ人々を40年以上にわたって撮り続けている『PERSONA』、人の営みの匂いを写し出す町のポートレイト『東京迷路』『東京夢譚』ライフワークであるこの2本のシリーズから精選したモノクロ作品約200点を一堂に展示、写真家・鬼海弘雄の世界を展観します。
写真家としての矜持(きょうじ)を頑固なまでに崩さず、人間という摩訶不思議な生き物に対する尽きない好奇心と愛情が注ぎ込まれた作品群は、圧倒的な力を持って見るものに写真表現の可能性を訴えかけます。熱狂的なファンも多い作家最大の展覧会となる本展は、まさに待ち望まれた展覧会と言えるものです。