陶淵明の創作以来、桃源郷は詩や歌に詠まれ、また絵に表されてきました。日本にも古く奈良時代に伝わり、近世江戸になると、與謝蕪村をはじめ、多くの文人画家が画に取り上げるようになります。こうした桃源郷への憧れは、近代に至り、文人画の再燃と相まって、小川芋銭や小杉放菴らに引き継がれていきました。そこには、都市化の発展によって失われた田園への哀愁、あるいは、西洋ユートピア社会主義に由来する農村共同体への共感も含まれていたでしょう。
桃源郷の小さな世界は、現代の作家をも刺激し続けています。桃源郷に想を得た辻原登の小説や諸星大二郎の漫画の豊かな作品世界。また、桃源郷の可能性を探るべく、現代作家の作品もご紹介します。
生きづらい今、私たちが求めるのは、小さくとも豊かな、この桃源的世界ではないでしょうか。せわしない日常から、ちょっとだけ足を伸ばし、桃源への迷路に迷いこんでみてください。