自然を常にインスピレーションの源とし、自分をとりまく世界を眺めることをこよなく愛したジョルジュ・ルオー。サーカスやキリストの作品で有名なルオーですが、風景はルオーが唯一生涯を通して描き続けたテーマでした。本展は日本で始めての風景画だけの展覧会となりました。〈第1章:巨匠に倣いて-古典主義的風景画〉では、ルオーが美術学校時代、ギュスターヴ・モローの教室で描いた作品を紹介。学校時代、「レンブラントの再来」と称されたルオーは卓越した明暗表現で神秘的な風景画を描きました。〈第2章:生きた芸術へ-自然・田園の風景〉では、ルオーが描いた父親の故郷ブルターニュ地方の海や一時家族と暮らしたヴェルサイユで出会った自然・田園の風景を紹介しました。〈第3章:古びた町外れ-パリの郊外〉では、ルオーが描いたパリ、すなわち自身が生まれたベルヴィル地区を当時のスライドとともに展示しました。〈第4章:「伝説的風景」へ-版画集『ユビュおやじの再生』から『受難』まで〉では、初期モノクロ版画からキリストが登場する聖書風景の完成までを紹介。〈第5章:歓喜のヴィジョン-聖書風景〉では、ルオー晩年の色彩と輝きに満ちた風景画をご覧いただきました。人間と風景との宇宙的つながりを感じさせる歓喜の作品世界は、今なお新鮮な感動を与えてくれます。東日本大震災の影響で作品の出品見合わせが続くなか、本展では、当初フランスから出品予定だった21点のうち14点をルオー財団のご厚意で出品いただきました。「ルオーの作品で少しでも日本の皆様の心が平安になればうれしい」と来日されたジャン=イヴ・ルオー財団理事長は語っています。ルオーの作品の持つ力強さ、生命の賛美は時代を超越し、受け継がれていくものと思います。 (増子)