古来より日本人は、豊かな自然の中にあるれるさまざまな色彩に心を和ませ、衣服や装飾に取り入れることで暮らしを豊かに、また華やかにしてきました。さらに、四季の移ろいとともに微妙に変化す色彩で季節を視覚からも感じ取ってきました。そこには、日本人の持つ繊細で優れた色彩感覚があったからです。
奈良大和路を生涯のテーマとし、約半世紀にわたって撮り続けた入江泰吉は、カラー作品を手掛け始めた昭和30年代後半頃から、奈良大和路の色彩表現に対する難しさを痛感することとなります。「情感を表すにはどうしたらよいか、いかにして色を殺すか、その方法をいろいろと考え、工夫した」と語るように、綺麗に写りすぎるカラー写真で、1300年という長い歴史をもつ奈良をどのようにして表現するか探し求めました。のちに「古色」という入江独自の色彩表現が確立されたのも、四季や自然の変化を繊細に感じ取ることができる感覚と、奈良大和路を心の眼で見ることができる感性があったからではないでしょうか。これは、かつてさまざまな色を日本人特有の美的感性で名付けたことと相通ずるものがあります。
今回は、入江作品のなかから古来より日本に伝わる色を見いだし、その名の由来を紹介するとともに、入江が古色で表現した作品から奈良大和路の色彩「やまといろ」を探ります。