木。それはふるくから美術の素材として多くの芸術家を惹きつけてきました。とりわけ日本においては、近代彫刻が誕生する以前から、最も身近な彫刻の素材として活用されてきたと言っても過言ではないでしょう。わたしたちが「木彫」と呼ぶとき、そこにはそうした歴史の蓄積としての「伝統」彫刻や、身近な生活とともにある「民芸」などを思い浮かべることが多いのではないでしょうか。
しかしながら、戦後の木の立体造形は、「木彫」という言葉のイメージからは大きく離れたものを生み出してきました。1960年代後半におこった「もの派」は、木などの「もの」そのものに、最小限の加工を施して提示し、日本現代美術の大きな転換点となりましたし、「もの派」を乗り越えようとしたその後の世代は、装飾性や物語性、象徴性などを取り入れつつ、つねに美術を更新するような新しい試みを加えてきました。
また、90年代以降のアーティストたちは、木という素材をそれぞれの視点から選び直し、高度なテクニックを活用しながら、わたしたちの生命や日常的な感情にふれるような、切実で豊かな造形をつくりだしています。
本展は、そうした木による立体表現の「これまで」を、小清水漸、舟越桂、戸谷成雄、砂澤ピッキ、神山明らの作家によってたどり、また、須田悦弘、三沢厚彦、三輪途道、棚田康司、三宅一樹、土屋仁応など最新鋭の作家たちによって木の彫刻表現の「これから」を紹介するものです。およそ50作品による、木という素材の美しさと表現の広がりをおたのしみください。