勅使河原蒼風(1900~79)は華道家の父、和風のもとを飛び出し、1927年、弱冠26歳の時に弟子ひとりないまま無一文で「草月流」を創流。以来、「いけばな」の革新を旨に激動の時代を生き抜き、この一流を大きく成長させるとともに、空前の「いけばな」ブームを作り出して、近代華道史上にその名を残す存在となりました。
戦後の混沌のなか、誰もがそれぞれに「新しい時代」の表現を求め、「前衛」を標榜し、かつてないエネルギーを横溢させた熱き時代、蒼風は、自由奔放に既存の「いけばな」を逸脱し、絵画や書といった他領域へも越境して、夥しい数の作品を作り出してゆきました。さらに福沢一郎、瀧口修造、岡本太郎、マチウ、サム・フランシス、イサム・ノグチなど国内外の諸芸術家とも広く交流し、多くの才能を抱きこんで、「草月」という名の文化風土を時代のなかに深く浸透させていったのです。それは華道界のみならず、戦後日本の文化史全般に計り知れない影響を残したといっていいでしょう。
しかしその存在力の大きさや、活動があまりに破天荒かつ多面的であったためか、漠然と「昭和の怪物」として語り継がれ、これまで客観的に検証する機会がなかったことも事実です。本展では、この「異色の前衛」に正面から対峙し、現存する戦後の蒼風作品と、蒼風の多様な美術品コレクションを併せて展示。加えて当時の様子を伝える貴重な関連資料・写真などを織りまぜ、蒼風という一人の表現者が生きた激動の時代、その特異なる時代精神の一端を伺い知ることができればと考えています。