ヘンリー・ムアは、20世紀のイギリスを代表する彫刻家です。人間と自然と
の融和を感じさせる、壮大でモニュメンタルな野外彫刻で有名です。しかし世界的な名声にもかかわらず、ムア自身は田舎の小さな村に住み、石や骨のような拾った自然物から霊感を得ながら制作を続けました。ムアの彫刻は、たとえ抽象的な形態に見えても人体が基礎となっており、石やブロンズなどの素材で、有機的な生命感が表現されています。その力強い生命力を秘めた造形の根底には、現代社会ではおろそかにされがちなヒューマニズムがあります。
本展では、彫刻6 点に加えて、パステルや水彩、リトグラフなど40 点の紙作品をご紹介いたします。1950 年頃から彫刻制作のための下絵はまれになり、ムアにとって素描や水彩は、次第に独立した作品となっていきました。紙作品においても「横たわる人体」「母と子」という、生涯を通して追求し続けたテーマがご覧いただけます。また、謎に満ちた人類の偉大な遺跡である《ストーンヘンジ》の版画19 点も見応えのあるものです。