カラヴァッジョは1571年、ミラノの有力者スフォルツァに仕える父フェルモ・メリージと、母ルチア・アラトーリの子として誕生し、ミケランジェロ・メリージと名付けられました。“カラヴァッジョ”は、故郷に因る通称です。徒弟時代をミラノで過ごした後にローマで画家として活動を始めたカラヴァッジョは、斬新で独特な画風によって当時の絵画の概念を覆し、新しいタイプの画家として一躍その名をローマ中に知らしめながら、特異な性格が災いして殺人を犯してしまい、以後の人生の大半を逃亡生活で過ごした果てに、1610年38歳で謎と波瀾に満ちた生涯を閉じました。
カラヴァッジョが細部に至るまで徹底的に追及した現実に即した写実表現は、誰もが容易に想像し得る同時代の風俗を加味した場面設定とあいまって、画面の登場人物たちに生き生きとした存在感を与えています。また、光と影を効果的に使ったユニークな明暗法は、想像力を通して鑑賞者の内面に訴えかける画期的な手法として、伝統や慣習にとらわれない新たな絵画の創出へとつながりました。彼が残した作品とスタイルは、グラマティカ、ジェンテレスキ、サラチェーニ、カラッチョロといったローマやナポリ周辺の画家たちばかりではなく、特にマンフレーディを介してリベラやヴーエ、バビューレンなど北方の画家にまで影響を与え、“カラヴァッジェスキ”と呼ばれる追随者たちを生みだしました。西洋美術史上に革新をもたらしたカラヴァッジョ様式は、ルーベンスやベラスケス、レンブラントら17世紀の画家たちにも受け継がれ、バロック絵画として新たな展開を迎えることとなるのです。
本展では、カラヴァッジョの生誕430年と「日本とイタリア2001年」の開催と記念して、ローマ・ボルゲーゼ美術館所蔵の《果物かごを持つ少年》ほか日本初公開となるカラヴァッジョの作品7点に、カラヴァッジェスキと呼ばれる彼の追随者たちの作品を加えた約40点の油彩画により、イタリアが世界に誇る至宝カラヴァッジョとその時代をご紹介いたします。